2006年11月27日月曜日

当世野菜栽培事情

(農産物遺伝子操作、ハウス栽培技術、農薬の進歩など)
前号では野菜が野生の性状を失い、人の食物として必要な要件を兼ね備えた食べ物であることを述べました。穀物を初めとして劇的に品種改良が進歩したのはまだ一世紀に満たない時間です。
しかも優良品種の発見は、近縁種の交配による偶発的な結果としての成果の積み重ねでした。
科学の進歩は農業技術にも多大な影響を与えています。たとえばバイオテクノロジーの原点となるワトソン・クリックのDNA二重らせん構造の決定は1953年。生物の形質が遺伝子によって決定されることが分子生物学的に認められた年です。
その30年後にはシータス社のキャリー・マリスがDNAポリメラーゼを使ったDNA合成原理法(PCR)を発表しました。この世紀最大の発見は幅広く産業界に革命をもたらすこととなります。1967年には、アポロ11号の月面着陸。航空宇宙技術の成果は環境制御やIC技術に大きく貢献しました。
また化学農薬の始まりはガイギー社のミュラーのDDT発明で1938年より始まり、除草や害虫駆除作業が簡略化されると生産量は飛躍的に増産しました。現代科学技術の発展は、農業の技術や方式までも大きく変化させています。

  DNA分子モデル

品種改良は、バイオテクノロジーの進歩により近縁種交配にたよる表現遺伝子の選択処方から目的とする遺伝子の組み換えという時代へと変化しました。この技術を使うと近縁種の交配に頼っていた種の制限が全く無くなります。たとえば糖尿病に悩む患者さん用にインシュリンを供給するために大豆にインシュリン産生遺伝子を組み込むことで、インシュリンを大量に含む大豆を提供することが可能となります。医療や医薬品製造技術での応用は多くの方々の賛同を受けやすいのですが、これが食料となると少し事情が変わってまいります。
GMO(遺伝子組み換え農産物)の登場
品種改良技術によれば、より多くの収量が期待でき、より寒冷地でも生育できるもの、さらに消費者の好みに近づけた品種(苦味・臭いを抑える/甘みや・香りを増す)が可能です。
GM技術は農薬に耐性となった遺伝子を本来の遺伝子に組み込んで、農薬を撒いてもかれない植物を作り出したり、害虫の体内で呼吸のメカニズムを阻害する酵素を新たに植物体に作らせるようなことが可能な遺伝子操作技術です。これまで人類が手にしなかった植物の形をしたある種の人工物です。GMOが進んでいるアメリカでは,トウモロコシの4割弱,ダイズの6割弱,綿花の6割強がGMO作物だといわれています。日本は大豆の90%をアメリカから輸入しています。
ただし、国内では一般農家がGMOを栽培しているということは表向きにはないことになっています。試験所レベルの研究栽培が現状ですが、各地でGMOの自生が確認されたとニュースになることがあります。EUのドイツ政府は、私達の食生活に大きな影響を与える決定しました。
ドイツでは、これまで、いわゆる遺伝子組み換え(GM)農産物の栽培は、研究目的に限られていましたが、政府は、初めてGM農産物を商業目的で栽培すること可能にするための決定を2004年に行ったのです。日本も将来的には可能性が高いと思われます。
ハウス栽培技術の進歩
農産品のうち穀物や野菜は、収量や品質が天候に大きく左右されます。日照時間、温度、積算温度、降水量、台風の通過などです。これに対して自然環境を限りなく排除しようとすることが試みられ、結果としてビニールハウスや屋内栽培技術、土に頼らない水耕栽培技術などが確立され始めています。栽培土壌を研究し、生育環境を最適にコントロールする。環境制御は電子制御で
温度・照明・水・二酸化炭素濃度をコントロールするそういう植物生産工場・基地が作られ始めています。コスト高がもっぱらの問題ですが、農業の株式会社としての制度と大規模化は将来への光です。


  野菜工場          システム管理         農薬による死亡者数

農薬の功罪
化学農薬の発明と大量製造技術および抗生物質の発見開発は、人が生きてゆくうえで真に大きな原動力となりました。しかし初期にあっては使用方法や毒性の正確な評価がなされないままに多くの事故を起こすこともあり、毒薬としての印象を強く与えてしまったことも事実です。特に農薬は一般の農作業者が実務に使用しますので、適正な管理・使用方法が重要です。さらに全世界からさまざまな食品輸入がなされ、一部開発途上国や輸入国の国情の違いから、既に日本では使用禁止となっている毒性の強い農薬が検疫で検出されることで消費者は時々不安にさらされます。
 全体的には法律で規制されている抗生物質や農薬は食べ物から検出されるべきではありませんが、現在の最先端科学技術の結果として生まれている農薬は、非常にナチュラルで毒性は人間に対して限りなく弱いということも知っておく必要があります。

消費者への情報開示がもっとも重要
1950年から1996年にかけて、世界の穀物生産量はほぼ3倍に増えましたが、それ以降伸びは止まってしまっています。過去4年間、毎年生産量は消費量に足りず、在庫を切り崩さなければなりませんでした。この原因は、環境破壊や温暖化による耕地の砂漠化と耕作地としてはほぼ利用すべき平地が利用されつくしたと考えられるからです。世界の人口は、現在約63億人で、世界の穀物生産量はおよそ19億トンです。1人当たり1日に最低限必要な穀物の量は457g(年間167kg)と言われてます。
 穀物を動物資料として家畜に与えている事実もありますが、現に途上国の1割近い人たちは毎日飢餓に直面しています。日本では、たんぱく質自給率は40%ぎりぎりで多くを輸入に頼っています。中国・インドなどが消費大国に転向したら、世界の穀物畑である米国などが異常気象で収穫が減ったりしたら、途端に日本は深刻な食糧不足に直面します。 単純に無農薬が良いという偏見も危険です。世の中は急激に変化しているのですから生産者販売者は、農薬の使用の事実と残留農薬を調べ、素性を表記すること。GMOも消費者が選択できるようにもっとはっきりと使用・不使用を明示し、コストに反映させればより現実的になります。産地を明示することで付加価値がつくならば正しく表示して高く売ったらいかがでしょうか。

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